まきちゃんのこと
高校生のとき、大好きな友達がいた。
学校帰りに神社に寄り道をして、二人で境内をぶらぶら歩いた。
金属の網目の屑籠に「クズ入れ」と書いてあった。
その瞬間、私の頭にギャグが降ってきた。
「ねぇまきちゃん、あの屑籠みて。くずはいれだって。まきちゃん入らなきゃw」
面白いと思った。
天才的なひらめきだと思った。
絶対ウケると思った。
「天才!」って言ってほしかった。
しかし彼女は、目に涙を浮かべて泣き笑いをした。
「ジェミニちゃん、酷すぎない? 私傷ついたよ」
私はショックを受けた。
彼女が泣いたことと、自分が人を傷つけたという事実に。
人を傷つけることを、自分がするとは思っていなかった。
ただ笑って欲しかった。
自分の無神経さに腹が立った。
今でもその頃のことを思うと、胸がギュッとなる。
入学したての林間学校でのことも、今でも覚えている。
森の中のキャンプ場で、班ごとにロッジに泊まっていた。
夜になると、他の班の女の子たちが一つのロッジに集まってくる。
深夜の秘密のおしゃべりタイムだ。
数人の女子たちが「男子のロッジに行こう」と言い出した。
真面目な学校だったのに、私は彼女らが意外と性に奔放で衝撃を受けた。
私は思わず口にしていた。
「女から行くなんて、みっともないよ。はしたないでしょ!」
一瞬、場がしーんとした。
まきちゃんが口火を切った。
目を丸くして、でも嗤うでもなく、
「ジェミニちゃん、純粋だね〜カワイイ!」
本当に驚いているみたいだった。
そんなふうに言われたのは意外だった。
ちょっとニヤリとした彼女の表情が今でも脳裏に写真のように焼き付いている。
彼女はよく、弟の話をした。
「弟がさ〜」と笑いながら話す愚痴の内容は、どれもかわいいものだった。
困った顔をしながらも、声が温かかった。お母さんが送り迎えしてくれる話もした。
私は少し羨ましいような気持ちで、いつも聞いていた。
言葉の端々から、温かく育てられてきたことが伝わってきた。
だから「純粋だね」の一言に裏がなかった。
そういう土壌で育った人間だけが、あの声のトーンで言える言葉だと思った。
まきちゃんは私の青春に、静かに大きな影響を与えている。
高校を卒業して一年後、仲のいい友人たちと飲み会をした。
まきちゃんとも久しぶりに再会できて、とても嬉しかった。
飲み会の席で、彼女は言った。
「SEXって気持ちいいよね〜」
私はショックを受けた。