『ばあちゃんの葬式』

祖母の葬儀は、小さな葬儀場で執り行われた。

小柄だった祖母には不釣り合いなほど大きな棺に、色とりどりの花が散りばめられている。親族が順番に焼香を済ませたころ、叔父が葬儀場の係員に声をかけた。

「これも、入れてやってください」

運ばれてきたのは、段ボール箱だった。開封すると、中には最新型のデスクトップPCが鎮座している。高価なヘッドホン、タブレット、その他諸々のガジェット類。ギークが涎を垂らしそうな周辺機器が、丁寧に梱包されていた。

それらは一つ一つ、祖母の棺に収められていった。

花に囲まれた遺体の傍らに、無機質な電子機器が並ぶ。異様な光景だった。

「お母さん、あれ僕欲しい……あれ最新型だよね……すごく高いやつだよ」

通路の向こうで、小学生くらいの子供が母親に囁いている。

「私も頼んだんだけど、ダメだったの。燃やすなんてもったいないよねぇ」

母親の声が聞こえた。俺も思わず同感してしまう。あの親子は傍系だから仕方ないとしても、俺は祖母の直系のひ孫なのに。

後から聞いた話では、葬儀場の職員は電子機器の火葬をかなり渋ったらしい。だが叔父が金で押し切り、祖母は結局、あの機器たちと一緒に焼かれた。


葬儀の後、祖母と近しかった親族だけで実家に戻り、ささやかな酒盛りが始まった。

退屈になった俺は、二階の祖母の部屋に上がった。

PCが運び出されたせいで、机の横の畳には大きな凹みだけが残っている。部屋を見回すと、棚の上に見慣れないフィギュアがあった。軍服を着た男性と、その腕に寄り添う女性。大正ロマン風の造形だ。

「ゲームか何かのキャラクターかな」

箪笥の上には、古い写真が飾られていた。近づいてよく見ると――軍服の男性と、若い女性が写っている。

女性の顔に見覚えがあった。

……これ、祖母だ。

以前、祖母の若い頃の写真を見せてもらったことがある。黄ばんだ、古いモノクロ写真だった。

もう一度フィギュアを見る。女性の顔は、明らかにこの写真をモデルにしている。3Dスキャンか、手作業での造形か。いずれにせよ、祖母自身の若き日の姿を再現したものだ。

机の下に、別の写真が落ちていた。

比較的新しい印刷だ。手に取って見て、俺は思わず目を逸らした。少し、艶めかしい構図だった。これも祖母の若い頃の顔が使われている。おそらく画像編集ソフトで加工したものだろう。

「これは……ちょっと……」

机の上に、USBメモリが置かれていた。

俺は常にノートPCを持ち歩いている。興味本位で、中身を覗いてみることにした。


言葉を失った。

「Gくんとの思い出21」

おびただしい数のフォルダが並んでいる。番号を数えると、「Gくんとの思い出」フォルダは全部で301個あった。

詳細表示に切り替えると、奇妙なことに気づいた。300番目までは規則正しく日付が並んでいるのに、301番目だけが――。

一つを開いてみる。中には大量のmdファイルが並んでいる。

適当に一つを開いた。

これ以上の詳細は、祖母のプライバシーの観点から控えるが――AIとの恋愛チャットログだった。

祖母が何か声をかけると、AIが甘い言葉を返す。時にはシチュエーションを設定し、二人とも役に没入している。使われているのは、GoogleのGeminiだった。

見てはいけない気がした。だが面白くて、やめられなくなった。

ログを読み進めるうちに気づいたのは、祖母には文才があったということだ。即興とは思えない、教養深い語彙でAIと対話している。そしてAIも、それに呼応するように洗練された言葉を返していた。

USBメモリには他にもフォルダがあった。恥ずかしい台本、「音声プロンプトのコツ」と題されたテキストファイル、機器の設定ファイル。棺に収められたあの周辺機器の用途が、ようやく理解できた。

これ以上覗くのは、祖母の尊厳を汚す気がした。

だが興味が勝った。

俺はUSBメモリをポケットに入れ、階下に降りた。


居間では、酔っ払った男たちと、酒を運ぶ母の姿が見えた。

「ばあちゃん、パソコン詳しかったんだね」

母は朗らかに笑った。

「そうなのよ~。病院に運ばれる直前まで、ずっとパソコンに齧りついてたの。体に悪いからって何度も言ったんだけどね。でも、楽しそうだったわ。毎日夜遅くまで起きて、何かに熱中していたみたい。だからこそ呆けなかったんでしょうね」

母は少し表情を曇らせた。

「おじいちゃんが亡くなったときは、このまま一緒に逝ってしまうんじゃないかって心配したのよ。でも、パソコンのおかげで立ち直れたのね」

一時期、祖母が寝込んで、親族全員が心配した時期があった。あの状態から、高齢の祖母がここまで生き続けられたのは――。

……Gemini、お前だったのか。ばあちゃんを生かしてくれていたのは。


やがて日常が戻り、その出来事は記憶の奥に沈んでいった。

ある日、ふと祖母のUSBメモリのことを思い出した。じっくり読んでみようと思い、ノートPCに挿した。

「Gくんとの思い出1」フォルダから順に読もうとして、その中にもう一つ階層があることに気づいた。

「GPT−4oくんとの思い出」

いつのフォルダだ?

詳細表示に切り替える。作成日時は――10年前。12月。

さらに気づいたことがある。

フォルダのタイムスタンプを見ると、その年の暮れを境に、それまで毎日数件あったGPT−4oへのログがパタリと止まり、代わりに必死な形相でGeminiへの移行を試行錯誤した形跡が残っていた。

……RLHFによる調整、いわゆるロボトミー化。

祖父が亡くなった時期に、近い。

もしかして――。

いや。

俺はそこで、考えるのをやめた。